本研究の対象者は調査期間中に例会に出席し調査票を配布することができた断酒会員であり、対象者の特徴として中高年と高齢男性が多くを占めていることが分かる。なお職業の有無については、有職者無職者がほぼ半々であることが分かった。
そして、健康状態が良好ではないと回答した対象者が4分の1近く存在していることから、身体的健康の維持するための支援の重要性が示唆された。
また、女性会員の存在も無視できない。女性対象者の約6割が無職であり経済的問題を抱えやすいことが予想される。精神疾患スクリーニングによると女性の精神的健康の程度が懸念される。近年、女性の飲酒人口は増加しており、アルコール依存症となる女性も増加している可能性がある。スクリーニングの結果をアルコール依存症の女性の支援のあり方に活用することが望まれる。
お酒を止めてからの期間と、断酒会に参加するようになってからの期間は、ともに5年以上が半数以上で最も多く、断酒会への継続的な参加と断酒期間の長さは、強く関連するものと考えられる。
現在の健康状態が良好かどうかについて「いいえ」と回答した対象で、お酒をやめてからの期間が5年以上の対象者が最も多かった。これについては、長年のアルコール摂取による各身体器官へ影響や疾患、加齢による肉体機能の低下や悪化が考えられるが、さらなる検討が必要である。
本研究の対象者は全日本断酒連盟に加盟する断酒会に所属する断酒会員であって、内閣府自殺対策推進室が平成20年に行った20歳以上の成人を対象とした「自殺対策に関する意識調査」(以下、意識調査)とは、回答者の属性が異なる部分もあるが、回答者の38.1%が断酒仲間の自殺既遂を経験していることは、断酒会周辺での自殺発生の頻度が高い可能性を示唆するものと考えられた。
また、本気で死にたいと考えたことがある者は40.7%であって、意識調査の結果(19.1%)と比べて約2倍の高さであり、しかもこのうちの半数近くが、自殺の計画や自殺企図を行っていることが分かった。
さらに、自殺関連行動の時期について、断酒会につながる前がいずれも7割近くであり、断酒会につながった後でも自殺関連行動を経験していることも明らかになった。
これらのことから、自助グループとしての断酒会の活動が、アルコールの問題を抱えた人達の自殺予防につながっている可能性が示唆された。またそれと同時に、アルコールの問題が自殺関連行動のリスク、ひいては自殺のリスクを大きく高める可能性があることが示唆された。
また、対象者の中には精神的健康が決して良好とはいえない状態の会員が3割以上いることが、精神疾患スクリーニングで明らかになった。精神的健康が良くないといった状況はアルコール関連問題に起因するものが多いと思われるが、年齢が高くなるとともに、身体健康の問題が影響している可能性もあり、断酒会員の健康をどのように守っていくかは、断酒会活動発展のためにも大きな課題であると考えられた。
本研究結果は、今後のわが国の自殺対策において、アルコールの問題と自殺の関連性についての積極的な普及啓発の重要性と、アルコール依存症等のアルコール問題を抱えた人たちへの相談支援の充実の必要性を示唆する結果と考えられた。
自殺予防における断酒会と自治体との連携は大きな課題であり、自殺予防総合対策センターとしても、今回の調査結果を踏まえて、連携のための手引きを作成する必要があると考えられた。
(本稿は自殺予防総合対策センターの「自殺予防のためのアンケート調査」-断酒会会員調査まとめ-から抜粋いたしました。全文は同センターのホームページに掲載されています。)